1967年に一般公開された映画「007は二度死ぬ」に、スタイリッシュな2000GTのオープンモデルが登場しました。劇中の2000GTは、タイガー田中の秘書であるAKI役の若林映子(今見てもキュート…)の運転により、ジェームズボンドの危機を救うなど、センセーショナルな活躍で観客をわかせました。撮影場所は、ホテルニューオータニ前や四谷および代々木近辺の他、富士スピードウェイの側道などを利用し、スタントシーンにはトヨタワークスドライバーの大坪善男がAKIに扮して2000GTを派手にドライブしました。なお、この映画のもう一人のボンドガール、浜美枝は運転していませんので念のため…。彼女は本編の後半でジェームズボンドの花嫁として登場します。

故・福沢幸雄や浅岡重輝などの計らいにより、映画の制作会社からオファーを受けたトヨタは、オープンカーへの改造を、子会社であるトヨペットサービスセンターに委託しました。同社は、EX-1などショー用の車両製作を得意とする特殊車両開発部隊でしたが、クーペボディからオープン2台の改造期間がわずか2週間というのは、彼らにとっても非常に厳しい要求でした。1966年5月、岡田稔弘の原案スケッチを元に、まだ車台ナンバーのないプロトタイプ2台を使用してオープン化への作業が綱島工場にて進められました。現場合わせの鈑金作業や、剛性確保のための補強、アクリルによるフロントガラス処理などを実施し、2台のオープンカーは苦難の末完成しました。その後1台は国内撮影用、もう1台は海外でのイベント展示に使用され、ファンの賞賛を浴びたのです。

miss wakabayashi and her Toyota
1967“YOU ONLY LIVE TWICE ”/ 007は二度死ぬ

上の写真は、トヨタ自動車が所有するボンドカーで、現在はパールホワイトに塗装(オリジナルカラーはペガサスホワイト)され、トヨタのイベント等で大忙しの毎日を送っています。前述の通りボンドカーは2台製作されましたが、トヨタが所有するこのクルマこそ、若林映子が運転した撮影用のボンドカーそのものです。30年以上の歳月を経て、現在はオリジナルのボディラインが消えてしまい(複雑な複合カーブで構成されているため、1ヵ所狂えばつじつまが合わなくなるため)、加えて各部の変更(バンパー、ウィンカーレンズ、ステアリング、シフトノブ、テールランプフィニッシャー、ワイパー、アンテナ、シート、幌カバー、通信機などの特殊機材取り外し、フォグランプカバー内側の色etc…)が施されているため、撮影時の面影は少なくなっていますが、スポークホイール、ドアノブの位置(低い)、マフラー形状、ボンネット両サイドのエアアウトレット形状、リフレクターフィニッシャー形状など、プロトタイプをベースとして使用された貴重な証拠が今でも残っています。なお、ジュネーブショーなど、ヨーロッパの各モーターショーに展示されたもう1台のその後については、今も何処かの片隅で眠っていると言う噂がありますが詳細は不明です。

1970年前後の数年、富士スピードウェイでマーシャルカーとして使用されていた時代のボンドカー。これも国内撮影用のボンドカーで、現在トヨタが所有するクルマそのものです。 運転手の大きさから2000GTのコンパクトさが良く分かります。なお、オーナーによるカスタムメイドのオープンカーとはガラス上部の形状やピラーの長さが違うため、更に低くスタイリッシュに見えるのがボンドカーの証です。

2000GTのオープンは映画撮影時、フロントガラスが取り外し可能なアクリル製に変更されています。オープンのフロントがラスはノーマルとは違い上部のサイドが丸く内側に倒れ込んだ感じになっています。その為ドアガラスは取り外されウインドウレギュレターも付いていません。フェンダーミラーは取り外され、リアのテールランプフニッシャーはメッキのブラスト加工したものからホワイトに塗られています。横から見るとマフラーの長さが違うのも確認出来ます。
カメラもアングルも違うので多少のズレがありますが下の写真とフロントガラス上部のラインの違いが確認出来ます。高さもほんの少し低くなっているとの事です。オープンはガラスだけでは無くピラーも違うため、ノーマルの屋根を切っただけではボンドカーのシルエットにはなりません。KYOSHOの1/43のオープンも屋根を切ったモデルです。ノーマルの屋根を切った実車は日本に1台(右ハンドル)アメリカに2台(左ハンドル)イギリスに1台(右ハンドル)が存在しています。
ノーマルのフロントガラス上部は真横から見た場合水平になっています。ガラスは旭硝子製で今でも入手可能ですが、ガラスに入るロゴがカタカナのトヨタからアルファベットのTOYOTAに変わっています。完全オリジナル派のオーナーには、そう簡単には交換出来ないかもしれません。交換する時もモールが無いために歪みが出ないよう慎重に外さないと後で大変な事になってしまいます。また新品が入手出来ても、板金しないと合わないので下手に手を加えると、これまた大変な事になってしまいます。

これがボンドカーのピラー。モールを無理に合わせているので
 下向きにねじっているのが分かります。右の写真と比べれば
 分かりますが、ボンドカーはかなり内側に入っています。
 流石にモールはオリジナルを加工して付けたようです。

こちらがアメリカ、メイン州在住のボブ・ターチックと
 ピーター・スターが作り上げたボンドカーのレプリカ。
 67年式のMF10-10117号車でナンバープレートは
 BOND007が付いています。

パールホワイトに塗られる前のボンドカーです。富士スピードウェイのマーシャルカーの後、ハワイで発見された2000GTはブルーに塗り替えられ、サイドに金の文字でTOYOTA2000GT、ボンネットはSERVCO-TOYOTA、トランクには白文字で ゛USED BY 007 IN: You Only Live Twice!″の文字が入っていました。ワイヤーホイールのメッキは黒く変色しフロントバンパー、フォグランプカバー、フロントウインカー、フロントアンダーカバーが欠品していす。1977年トヨタ会館の建設に伴い、その展示物のひとつとして、復元、保存されることになりました。

幌カバーはダミーであり、実際には幌はありません。しかし、室内全てをカバーできるトノカバーが別途用意されていました。

オープンに付くマフラー。マフラーエンドは緩いカーブが付いていて先端のカットも斜めになっていません。

シートは張り替えられていますがオリジナルのシボではありません。オリジナルはひし形の中に扇型の膨らみが入ります。

シフトノブの手前にあるのがパーキングブレーキで右に倒せば解除されます。

こちらが前期型に付く
オリジナルのマフラー。

これが2000GTオリジナルのシボ。この生地にミシン目が入り、針金の引っ張りで骨組みに張り付けられます。

左右に飛び出しているのはリアサスペンションのカバー。映画ではこのスペースにSONY製の通信機が入っていました。

ダッシュボードのセンターにはAMラジオのスピーカーが1つ入っています。ダッシュボードにはトノカバーの受けのボタンが各所に取り付けられています。

オープンに付くワイヤーホイール。当初はワイヤーで発売する予定でしたがワイヤーが緩むトラブルでマグネシュームホイールにに変更されました。

ボンネットのヒンジを囲むカバーが欠品しています。ボンネットやヘッドランプカバーの隙間が少し気になります。

これがそのスピーカー
TENVOX TYPE SP-1601B KOBE
INDUSTRIES CORP.

ハンドルはレストアされシフトノブもオリジナルタイプが付いています。ドアガラスはありませんが本来付いていなかったレギュレターハンドルが付いています。

トノカバーを囲むモールはリベットで止められています。形からリアゲートの窓枠のモールを流用しているようにも見えます。

ノーマルよりとがった形状のリフレクターフィニッシャーはビス止め。これもプロトタイプをベースとした証です。

市販車に付くリフレクターフィニッシャーとリフレクター。オープンより少し丸いのが分かるでしょうか?